私は韓日翻訳家です。翻訳だけに絞ってからは4年ほどですが、副業期間も合わせると10年目を迎えます。
国際イベントなどに仕事で参加すると、韓国語を勉強している人たちによく聞かれる質問があります。
「どうやったら翻訳家になれますか?」
特に学生さんからは「卒業後の進路として翻訳家になりたい」という相談をされます。
私もかつて翻訳家が夢だったので同じ夢を持つ人たちのために、翻訳家の私が思う翻訳家に必要な条件と、翻訳家になるために今からできることをお話しようと思います。
イメージが湧きやすいように「日本語ネイティブが韓国語を日本語に翻訳する韓日翻訳」について書きますが、他の言語でも当てはまることがあるので是非参考にされてください。

私は翻訳だけでなく翻訳者の新人教育もお仕事としてやっていますので、新人さんたちを見て思った翻訳者としての向き不向きや翻訳技術アップのヒントをお教えします♪
翻訳家を名乗れば翻訳家です
医師になるには医師免許などが必要だと法律で決められていますが、翻訳家になるために必要なものは法律で決められていません。(日本での話です。)
極端な話、翻訳家を名乗れば翻訳家になれます。
とはいえ、お店を開けば自動的にお客さんが詰めかけるわけではありません。商品がよくなければ売れませんよね?
翻訳家も同じです。翻訳結果物がよくなければ売れません。
翻訳家も、商品・サービスを提供するお仕事なのです。
では、どうすればいい商品・サービスを提供できるようになるでしょうか?
こういう人は翻訳家に向いてます
- 文章力・語彙力がある
- わからないことを調べる力がある
- 翻訳する言語の国の文化をよく理解している
- ある程度の人生経験・社会経験を積んでいる
ザッと思いつくのはこの四つ。
もちろん、翻訳をしたい言語(=韓国語)をある程度習得していることが大前提です。
文章力・語彙力がある
翻訳ジャンルにもよりますが、翻訳家はもはや物書きです。文章力と語彙力がなければ厳しいです。
同じ卵焼きでもプロの料理人が作るものと、料理が苦手な人が作るものではまったくの別物が仕上がりますよね?
プロの料理人には素材をいかにおいしくきれいに料理するかの知識と経験があるからです。
翻訳家にはいろんな表現を駆使できるほどの語彙力と、文章を書く習慣・経験から得られる文章力が必要です。
私は書く練習がしたくてTwitterやこのブログをはじめました。
わからないことを調べる力がある
同時通訳とは違い翻訳は基本的にわからないことを調べる時間が充分にあるので、韓国語がネイティブレベルに達さなくても翻訳家になれます。その代わり、調べる力が問われます。
この世には、辞書に出て来ない言葉がたくさんあるんです。わからないことをわからないままにしていては納品できません。「韓国語で韓国語の意味を調べる」ことができるくらいの韓国語力と調べる力が必要です。
翻訳する言語の国の文化をよく理解している
言語にはその国の文化が宿っています。文化を知らないと訳せない文章があるのです。
たとえば、「밥 잘 챙겨 먹고~ 잘 가!」という文章。
直訳すれば「毎食しっかり食べて!またね!」となります。韓国では「ご飯を食べたかどうか」を聞く文化があり、こういう挨拶を頻繁にします。腹が減っては戦はできぬ、何ごともご飯をしっかり食べることからはじまるという考えが強いからです。
ところが、日本ではどうでしょうか?
別れ際に習慣的に「ご飯しっかり食べてね」なんて言いますか?言わないですよね。
こういう文化の違いを理解することで、「体に気をつけてね!」くらいのナチュラルな日本語訳をつけることができるようになります。
ある程度の人生経験・社会経験を積んでいる
これは上記の三項目に通ずるものがあります。ある程度の人生経験や社会経験を積むことで、自然と語彙力や文章力、調べる力、文化理解などが身につくからです。
より広い分野で翻訳家として活躍したければ「大学を卒業してすぐに翻訳家として独り立ちする」よりは、「就職して社会の荒波に揉まれながら空いている時間を利用して翻訳を少しずつはじめて経験を積む」ことをおすすめします。
翻訳経験がない人にはなかなか翻訳依頼が入ってきませんし、就職することで安定した収入を得ながら少しずつ勉強していけます。就職先で社会人としてのマナーを学んでおくと、翻訳家として開業してからもクライアントと良好な関係を築きやすいです。
また、就職すると会社や取引先などでいろんな人と知り合うことができるので、思わぬところから翻訳の依頼をもらうこともあります。コネクションって大事。韓国の人って特に知り合いに仕事を頼むのが好きな印象です。
とはいえ依頼が来るのをただ待っているのではなく、この期間にいろんな翻訳会社やクラウドソーシングサービスに登録して理想の働き方ができるクライアントを探すといいですよ。
できれば大手の求人情報サイトからちゃんとした翻訳会社を見つけるに越したことがありませんが、クラウドソーシングサービスの有名どころのココナラなどに登録して相場や働き方を見学してみるのもいいと思います。
ちなみに私も韓国企業で4年、日本企業の韓国支社で3年、社内翻訳通訳やテレビ番組の字幕翻訳を含む様々な翻訳をしてスキルを磨きながら経験を積み、翻訳家として開業して翻訳一本に絞りました。今は信頼できるクライアント数社とのみ仕事をしていて、物価の高いオーストラリアでパートナーを養い貯金もできるだけの収入を得ています。
のんびりマイペースにここまでやってきましたが、自分が訳したものが書店に並んでいるのを見ると、これまでの経験が実を結んだことが実感できうれしいものです。
資格は取った方がいい?
韓日翻訳関連の資格には韓国の번역능력인정시험(翻訳能力認定試験)や、日本の翻訳実務検定「TQE®」などがあります。
翻訳分野によっては資格の有無を問われることもありますが、目指す分野で資格が要求されないのであれば、無理して取得する必要はないと思います。
私は求められたことがないので取得していません。韓日翻訳は資格なんかよりも経験を問われます。これまでの経験を盛り込んだポートフォリオ作りに時間を割いた方がいいように思います。
ただし、韓国語能力検定試験(TOPIK)の6級は取っておきましょう。
翻訳家になるために今からはじめられること
翻訳家になるには何が必要なのかおわかりいただけたと思います。では、必要条件をクリアするために何ができるでしょうか?私が普段からやっていることを紹介します。
文章力・語彙力を磨こう!
とりあえず日本語の書物を読む、これに尽きます。
いくら韓国語を理解できていても、日本語力が乏しければいい翻訳結果を出すことができません。私がこれまで教育をした新人翻訳者さんの中で唯一ひとり匙を投げた人がいたのですが、日本語力が本当に皆無でした。韓国語力より日本語力!と私は考えています。
また、韓国語と日本語は似ているので原文の韓国語に影響され日本語が韓国語的になりやすく、それを防ぐためにも日常的に「ちゃんとした日本語」に触れておくことは非常に大切になってきます。
気軽にはじめられるのは「NHKニュース」を読んで正しい日本語表現や、NHKの表記法を学ぶこと。
NHKでは差別的表現はもちろん使わず他の言葉に言いかえますし、放送禁止用語は使いませんし、単語によって漢字表記にするかひらがな表記にするかなど読みやすさを考えた独自の基準を設けていて、その基準を採用している出版社や放送業界(字幕翻訳業界)も多々あります。次のような辞典やハンドブックが出ているほど。

いちいち全部暗記していられないので、パソコンの文字入力方式に「ATOK」を使っている人はATOKにNHKの漢字表記辞書をインストールすることができます。文字を変換するときにNHKはこう変換しますよって教えてくれるので便利です。私は2013年度版を使っていますが今は2015年度版が最新版のようですね。

NHK 漢字表記辞書2015 for ATOKの詳細はJustSystems公式ページをご覧ください。
ヤフーニュースなどのネットニュースはどうしてもクオリティーが乏しいものも多いので、日本語の勉強には無難にNHKがおすすめです。
ただ、ニュースだけだとどうしても表現や口調が偏ってしまいます。もっといろんな書物を読むことで表現の幅が広がりますが、今は図書館に通いたくてもコロナでなかなか外出しづらいですし、かといってネットで本を購入すると結構お金がかかりますよね。
そこでおすすめなのが、電子書籍の読み放題サービスです。最近は定額で本が読み放題になるサービスが充実していて便利で安上がりです。私の周りの翻訳家さんたちもインプットのためにいろんな読み放題サービスを利用しています。
中でも読み放題初心者さんにおすすめなのは、Amazonプライム(以下アマプラ)に加入することです。月500円(税込)または年4,900円(税込)でアマゾンでの買い物でお急ぎ便が無料になったりするので利用してる方も多いと思います。
実はアマプラに加入するとPrime Reading(プライムリーディング)というサービスが利用でき、Kindleアプリで約1,000冊の本や雑誌が読み放題になります。
いろんなジャンルの本があるので、広い分野の語彙や表現を知ることができますよ。
あれこれ本を買い込むより安いので、気になる方はまずは30日間の無料お試しで自分に合う勉強法か確認してみてください。合わなければお試し期間中に解約するとお金がかかりませんので、解約するのを忘れないでくださいね。

Amazonの回し者でもなんでもなく、うまく使えばコスパ最強な語学勉強ツールになります。とにかく日本語表現をインプット!
ただ、そんなコスパ最強なツールにも短所があり、Prime Readingには韓国語学習関連の本がないんです。(泣)
韓国語の語彙力も一緒に伸ばしたい人は月額980円のKindle Unlimitedに加入することで、次のような韓国語テキストや単語帳も読み放題になります。

もちろん上の二冊だけでなく、Kindleストア―韓国語に移動するとKindle Unlimitedに加入することで読み放題になる韓国語関連書物がい~っぱい!
韓国語関連以外にも、和書12万冊以上(雑誌は約350誌)と勉強できる範囲がぐんと広がるので私はKindle Unlimitedにも加入しています。翻訳のために何かを調べるときにKindle Unlimited内にある専門書が活躍してくれるんですよね。電子書籍なので書籍内検索もかけられるし便利!
私は読んだことがないですが、通訳翻訳のノウハウ系の本も見受けられます。韓国時代劇・歴史用語事典なんていうのもあるので、韓国時代劇の字幕翻訳がしたいって人も要チェック!本当に勉強になります。
こちらも30日間無料で試せるので、とりあえず試してみて続けるかどうか決めるといいですよ。
【公式】Kindle Unlimited 読み放題【30日無料体験】

Kindle Unlimitedにもって…Kindle Unlimitedに加入したならアマプラは必要ないんじゃないんデスカ?

それが、アマプラに加入してると他にもできることがあるんです。次の項目で紹介しますね。
文化を知ろう
文化を知るには留学するのが手っ取り早く確実なのですが、コロナの影響で今は留学が難しいので積極的にドラマ鑑賞をしましょう。
最近は韓国ドラマ好きの間でNetflixが話題ですが、一番安いプランでも900円くらいしますよね…。そこでおすすめなのがPrime Video(プライム・ビデオ)です。
先ほどPrime Readingで紹介したアマプラに加入することで、Prime Videoの作品の一部が見放題になるんです。
一部とは言いましたが、韓国ドラマや韓国映画が結構充実していると話題なんですよね。
プライム・ビデオ―韓国ドラマからどんなタイトルがあるか確認できます。「プライム会員特典」と書いてあるものが、アマプラ会員が視聴可能な作品です。
日本語字幕をオンにして観て、セリフと字幕翻訳を比べてみるのもすごく勉強になります。
字幕には1秒につき4文字までという字数制限があるので、早口でしゃべりがちな韓国人のセリフがどう凝縮・圧縮されて表現されているかを勉強するツールにもなります。特に、字幕翻訳家を目指している人はこういうところを研究してみてください。
月額たったの500円で韓国ドラマも観られて約1,000冊の本が読めるアマプラは、本当にコスパ最強な語学勉強ツールですよ。これ以上のサービスって他にない!
まとめ
翻訳家になるためにはどうすればいいか、ざっくりイメージしていただけたと思います。ソース(原文)言語の語学力を磨くだけじゃダメなんです。
翻訳家には翻訳の正確性はもちろん結果物のクオリティーの高さも求められるので、いかに原作・原文のよさをいかして別の言語に置き換えられるかが大切です。
韓日翻訳なら日本語の勉強を、英韓翻訳なら韓国語の勉強を、ようするに結果物の言語の勉強に重点を置きじっくり時間をかけてスキルを高めていってみてください。
千里の道も一歩から、翻訳家への道は一語からですよ。
▲ハンセン病の歴史を韓国も少し絡めて紹介しています。